Satomi        Nov.2002    



青い空と、どこまでも続く広い海。
そしてこの遠浅の海を雄々と飛ぶ白い鳥たち。
現実のものとは思えないくらい素敵な景色。
何も考えず、ぼぉ〜っと、海をながめていると、遠くから子供達の声が聞こえてくる。
「マウリ」の一言で彼らとの時間が始まる。
焼けた肌に白い歯がまぶしい。
愛想笑いとは違うとても素敵な笑顔に、思わず見とれてしまう。
子供達は、なんでもないことでもすぐ遊びに変えてしまう。
彼らといると、あっという間に時間が過ぎる。
「何をしてたの?」と聞かれても、回答に困る。
ただ、いっしょに、泳いだり、走ったり、歌ったりしていただけだから。
私の方が、子供達に遊んでもらっていたにすぎないから。

キリバスの人達は歌が上手だ。
日曜日の教会。
小さな子供までサンドレスを着て集まってくる。
すわるところがなくて入口付近にいると、「こっちにおいで」と中に呼んでくれた。
教会の中いっぱいに響きわたる声。
言葉の意味はわからなくても、気持ちを揺さぶる歌声に目がうるんでくる。
教会での歌声はいつまでも耳に残り、夜、男女で合唱しているのが聞こえてくると、思わず蚊帳をはい出して聞きに行った。
変な訪問者に驚くこともなく受け入れてくれるおおらかさに、こっちがとまどうくらい。

朝、夕、浜を歩いていると、ココナッツの木に登る少年と目が合う。
ひょい、ひょいと上まで登り、樹液のビンをとりかえる。
彼らの歌は軽快でよく響く。本当に気持ちよさそう。
その気分を味わってみたくて、まねをして登ってみたが、どうやら「足場」に私の足の長さが合わないらしく、とどかなかった。
とても残念。

夕日の見学がてら、村のトイレを見に行く。
トイレと言ってもきれいなビーチ。
ずぅーっとむこうまで続く遠浅の海は、時間とともにその姿を変える。
朝方引いていた潮は、少しずつビーチにもどってくる。
ちょっと前に見た時は、エメラルドグリーンの中でほんの「ライン」でしかなかった「ブルー」の部分が、気づくと急に増えている。
「水が増えたから?」と思いきや、いつのまにかその「ブルー」もまた細くなっていく。太陽や雲の位置によって、海もまたその姿を変える。
見ていてあきない。
ふとふりむくと、女の子が2人やってきた。
その後ろからは自転車に乗った女の子が続く。
彼らは思い思いの場所を決め、散っていく。
右手にはどうやら男性陣がいるらしい。
それならば、と左手に進む。
やがて空が赤く染まり、海に太陽が落ちると、はるかかなたまで引いていた潮もビーチいっぱいまで戻ってくる。
潮の満ち引きで、これだけ景色がかわるところが他にあるだろうか。
自然って本当にすごい。

月の明かりが強くなってくる頃、満ちたりた気持ちで来た道を戻る。
しばらく歩くと前方にどうやら「最中の人」を発見する。
髪が短いから男の人だろうか、それならば・・・・・と、また歩いて来た道と反対の方へ歩き出す。
・・・・・・と、またもや、そこに!!
そして再びUターンする。しかしながら、まるで遊ばれているかのように、また目の前に人がしゃがんでいる!!
どうやら、ピークの時間にあたってしまったらしい。
結局、あと少しというところまで来ていながら、島の端をぐるぅ〜〜っと、まわって「ナマコ漁」の人達の家まで来たのだった。
でも、「歩けば人にあたる」と言いたいくらい、この短い距離でたくさんの人に捕まる。
しかも英語で話すと、キリバス語で返ってくる。
話が通じているんだか、いないんだか私にはよくわからない。
それでも会話は続く。
なんだか、とっても不思議な人達。
ちょっと夕日を見に行くつもりが、長い長い散歩になったのだった。

ダイビングの休けい中に、はじめて漁をする。
「モリ」を持ってシュノーケルで潜る。
スキンダイビングの下手な私は、水面でパシャパシャしてからやっと水中にしずむ。
だから、サンゴの高さまで降りた時には、すでに息が続かず、すぐに浮上。
魚をねらうどころではない。
でも、マーティンは「本当に人間か?」と思うぐらい、水の中でも自然に動く。
頭を上にしたまますぅ〜っと水中に入っていく姿は、見事!!を通り越して、美しいばかり。
この姿をカメラにおさめたかった。
「すばやく水中に入って、魚と平行になるまでゆっくり近づき、正面からうつ。」その言葉通り、見事なお手元を見せてくれるのだが、なかなか思うように体は動かないし、息も続かない。
しかも、私が近づくと、魚には背をむけられてしまう。
結局、最終日のダイビングも、2本目はやめて、漁に夢中になる。
まずはゆっくりと近づいて魚とむき合えるよう努力。
でも、そう簡単にはいかない。
やがて、「一ぴきだけでもつかまえろ!」とプレッシャーがかかる。
あ〜〜あ。
穴の中にいた大きな魚をねらってかまえる。
でも、やっぱりむこうが上手。
殺気を感じてか、さ〜〜っと逃げられる。
が、その後ろにいた「かわはぎ」と目が合う。
「あら・・・。」と思った瞬間、モリを放つ。
そして、あたった!!
気分良く、キリバス最後のダイビングを終えた。

ここに来て、いろんなことを体験できた。
自分では必要最低限にまとめた荷物。
でも、そのうちスーツケースは未だとどかない。
ロストバッゲージで手元に残ったのは、手荷物以外に、マスク、フィン、Tシャツ、水着とさらにミニマムなもの。
カメラのハウジングはあるが、ゴムやグリス、ライトはスーツケースの中。
電池はあるが充電器はスーツケースの中。
蚊よけスプレーも、むしさされの薬も、サンダルもスーツケースの中。
だからダイビングは、水着+Tシャツで、カメラもなし。
夜も蚊にさされたいほうだい!! 
フィンをつける時以外は、ずっと裸足。
でもこれはここでの生活をとことん体験できるよう神様がくれたチャンスだと思った。
日本から持ってきた「荷物」がなかったから逆にここでの生活を楽しめたのだと思う。
日本での生活に「必要な」便利なものがなかったから、ここで村の人達ときままにすごせる時間を増やせたのかもしれない。
楽しかった。
来て良かった。

                      

ps−
タラワを出発する日、一足遅れて着いたスーツケースが空港で私を待っていてくれた。